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「お金と言えばさ、小学生の時のこと覚えてる?」
「…小学生?」
「うん。5年生の時かな?ここの遊園地で私、財布落としちゃって…」
私たち2人は毎年の夏休み、必ずここに来ることにしていた。
幼稚園の頃からずっと…毎年ずっと……ずっと。
「葵、園内で一緒に探してくれたよね」
「……そんなことあったけ?」
私は首を傾げてとぼけてみせる。
もちろん嘘だ。ちゃんと覚えている。
照れ隠しについた、柔らかな嘘。
「えー!覚えてないの!?…なくしたのを知ったけど、私時間もったいないからって──」
気を遣って泣きそうな顔で苦笑いしながら、アトラクション回ろうって言ったよね。
悲しげな表情見たらなんとかしなくちゃって…私、必死になって探したんだ。
お互い夏の日差しでヘトヘトになりながら。
「あの時さ──」
嬉々として語る夏海の微笑みを見て、私も思わず口角が緩む。
夏海との遊園地の思い出は全て、私の大切なものだ。一時たりとて忘れたことはない。
「……」
夏海の声を聞きながら、少し遠くにある遊園地のベンチが目に映った。その脇には1本の木が立っている。
夏海と初めてここに来た時…私は…
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