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真夜中の花火
花火が上がっているのだと思った。最終電車に乗り遅れ、人混みを避けて歩いているうちに川沿いに出た。その川に、大きな花火の影が見える。空を見上げれば雲もないのに、どこにも花火は見当たらない。
川から流れてくる冷たい風も気持ちいい。川面に映る不思議な花火を見下ろしながら、鈴虫が鳴く土手に座り込んだ。
音もせず、静かに消えてはまた光る様子をぼんやりと眺めていた。
暗闇に目が慣れてきた頃、ふいに空に巨大な影が動いた。飛行機だろうか。いや、巨大な手だ。目を凝らして空を見上げると、細い糸のようなものが空から降りてくる。そして、川面にパッと光が灯された。線香花火だったらしい。
何かを弔うように、ピカピカと夜が明けるまでそれは続いた。
対岸で花火を見下ろしている人達の中に、懐かしい誰かを見た気がした。
「大丈夫ですか?」
始発が出る頃、駅前のベンチで駅員に声をかけられた。身体を起こすと、ふわりと服の裾から火薬と草の匂いがして消えた。
了
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