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301号室のドア越しに、こちらの騒ぎを見つめるリタの母国・英国の超有名人を、リタが知らないはずはない。
リタは土産袋をぶら下げた俺の首根っこをがっしり掴んで、真っ直ぐ301号室へ向かう。
天才画家が静かに暮らす302号室をあえなく通り抜け、俺はマタギに仕留められた獲物の如く、ずるずると引き摺られるほかはない。
ロクに呼吸できずに窒息死したらどうしてくれるんだと思ったら「そのくらいじゃ死なないから。万一、呼吸が止まったら、直ぐに蘇生してあげるわよ」とリタ。
自作自演かよ。
なんちゅう救命医だ。
そんなリタ(既婚者)は息も絶え絶えの俺には見向きもせず、ジル様にガンガンハートを飛ばしていた。ダーチャみたいな美形よりも、007みたいなワイルドセクシー男子が好みだって言ってた癖に。
電話対応でよくあるおばちゃんの如く、リタの声がワントーン上がる。
「Excuse me , Mr. あなた、ジルベール・マーレイですよね?」
「そうですが。」
「『小旅行の恋人』の。」
「……。」
リタ、あかんやろ!
母親のロージィの作品と
ごっちゃになっとるやん。
ジル様固まっとるがな!
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