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辿り着いたホコリ被りの教室には、先程と変わらず褪せたカーテンの横手には不気味なほど美しい鏡が目に入る。そして、奈々瀨はやはりか、と深いため息をついた。この教室を訪れたときから常々感じていた違和感。その正体が彼の前にある。
磨かれた鏡面は薄汚れた教室を映し出している。そして、今、彼は鏡の前に立ち尽くしている。鏡の中に人影は一つもない。_そう、奈々瀨の後ろの景色だけを変わらず、写し続けているのだ。
これは、もはや鏡とは呼べない。決まったものを切り抜いておくための写真と同じだ。
「あの世のかたえに在りしものよ...」
鏡面へと手を伸ばした。触れた瞬間、それは波打ち始め、指を手を静かに呑み込んでいく。
「俺は貴殿を送るもの...」
泥のように冷たく、泥濘のように重く絡みついてくる。これこそが、黒い何かの正体だ。
「深い辛苦、憤慨、嫉妬、悲嘆、全てを忘れ、永劫の輪へ還ろう...」
人間の成れの果て。霊が死んだことを認められず、みっともなく生にしがみつき、挙げ句、生者に取り憑く。
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