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あの女_日輪はきっとこの中のどこかにいるはずだ。自身の感情を知らず内に喰われ、とどのつまり成長したそれに自分という存在ごと喰われて終わる。親が子に食われて死ぬなんて、バカな話もあったものだ。
「貴殿をつつむ闇は失せ、来世への希望に満ち溢れ、さすれば”無”は”有”へと転換されるだろう...」
長い文言を言い終えて、息を吐き出す。仕事を行う前の前口上、祓い屋としての決まり文句みたいなものだ。まずはこれを覚えなければ、祓うことも許されない。
初代だったか、その次だったかの当主がこの言葉たちを考えたらしい。もう、数百年も前のことだから、文献とかにも残ってはいないが、こうして当主達が口伝えに継承してきたらしい。だが、残念ながら今ではほとんどが形骸化されている。
(こいつに意味を見出しているのは、屋敷のジジイどもくらいだ。別にそんなの考えなくたって、祓らえりゃ同じだろ)
「にしても、あの女どこにいやがる」
泥の中を掻き分けても、それらしきものは見つからない。全部喰われた...わけではないはずだ。それなら、鏡であるはずがない。こいつの今の状態はサナギみたいなものだ。現在進行形で人間を消化している。それが終わったとき、これは完全な悪霊となって害をなす。
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