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吐き捨てるようにそれだけを返せば、茉紗は頬を膨らませた。だが、彼女がこれ以上奈々瀨に話しかけることはなく、振り返って冷華と稔に声をかけはじめた。
「あんまり十円ハゲを見つめるのも可哀想だし、二人とも帰ろ〜」
「......そうだね」
コクリ、と頷いて、歩き出した茉紗の後を、冷華がついて行く。稔は立ち止まったまま、何も言わなかった。はあ、とため息をついて、奈々瀨は彼女の方へ近づいた。
「おい、深瀬も一緒に帰れ。......えっと、その、なんだ...暗くなると危ないだろ」
「ナナくん、まだ夕方だけど〜」
「うっせ。お前は黙ってろ.......わかったか、深瀬。............おい?深瀬、お前、何を見てるんだ?」
覗き込んだ稔の表情は、奈々瀨を見ているようでいて、どこか遠くを見ているようでもあった。いつもより、ぼんやりとした印象が見受けられる彼女は、奈々瀨の言葉にすっと後ろを指差して、口を開いた。
「ねえ、ななちゃん?後ろにいるのは、だれ?」
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