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「は...?」
振り返ろうとして、背中に冷たいものが走るのを嫌に強く感じた。足が固められてしまったように動かなかった。呼吸がどうしようもなく苦しくて、まるで仕方を忘れてしまったかのように絶え間なく、新しい空気を体内に入れて荒く吐き出した。
すると稔が震える指を奈々瀨の背後へ向けたまま、またうわ言のように呟いた。
「どこかで見たことある、私とおんなじくらいの子」
(それ以上は駄目だ...戻ってこれなくなる)
そう思うのに、言葉がつっかえて上手く出てこない。虚ろな目で、しかしハッキリとあちら側のものを視界に捉えているらしい稔。出ない声の代わりに奈々瀨は手を伸ばした。彼女に触れると、微かな震えと血の通ったあたたかさが伝わってきて、少しだけ力を強めた。不思議なことに、稔に触れたところから空気が軽くなっていって、呼吸がしやすくなった。今なら、きっと自分の声が、言葉が、彼女に届くと無責任に感じた。
「後ろの子はお友達?それとも___?」
「深瀬、見るなっ!!」
いきなり肺に飛び込んできた多量の空気に驚いて、空咳を何度か繰り返した。だが、そんなことはどうだっていい。目の前の彼女がようやく俺の方を向いてくれたのだから。
(やっとお前に届いた...)
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