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稔はまだ少しだけぼんやりとしていたが、奈々瀨の顔を覗き込んで心配そうに顔のパーツをギュッとさせた。その表情が昔の彼女と重なって、しっかりしなければ、という気分にさせてくる。
奈々瀨は両の手の平で、パンパンッと二回自分の頬を叩いた。突然のその行動に稔は驚いていたが、逆にそれが彼の心を安心させた。
「一度しか言わないからよく聞け!深瀬、俺はもう、絶対にお前を泣かせない」
両足に力を入れて、奈々瀨は後ろを振り返った。それを見て、反射的に足が震える。だが後ろで稔が鼻をすすりながら言った呟きが聞こえて、思わず笑みが漏れた。
(ったく、なに泣いてんだよ)
久しぶりに感じる温かい感情だった。それが奈々瀨に力を貸してくれたように、少しだけ足の震えが収まった。深呼吸をして、正面のそれを見る。稔の言っていたそれは確かに人の形をしていたが、明らかに人ではなかった。全身を黒く染め、手足の指の先は細く尖っていた。おぞましい造形の持ち主だった。
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