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「ちょっと、茉紗。これどうしたのよ!?」
「どうした...ってぇ、実はガラスにびっくりして転んじゃったの〜」
慌てる稔をよそにテンポの遅い口調で説明する茉紗。その時、隣りにいた冷華の表情に影がさしたのはただの思い過ごしだろうか。傷はあまり大きくなさそうだが、未だに血が止まっていないらしく、徐々に床にも染みをつくり始めていた。
(また、俺の仕事が増えたじゃねぇかよ)
心中で悪態をつくが、実際奈々瀨の目の届く範囲にいてくれる、ということは、余計な行動をとられるよりずっと楽だ。厄介事は増えるかもしれないが旧校舎に踏み込んだ者たちの安全性という面で言えば、こちらの方がよっぽど堅実だろう。
とりあえずは茉紗がいるのだから、二人のことは彼女に任せておけばいい。まあ、頼みの綱が一番の重症者なのもあれではあるが...。
「おい、悠樹。腕貸せ」
「えっ、あっ...うん。全然いいけどぉ何するの〜?」
「うっせぇ。ちょっと黙っとけよ」
憎まれ口を叩きながら、奈々瀨は自分の服の裾を躊躇いなく破った。いきなりのことに驚いている三人を他所に彼は腕の外傷へ破いたそれを包帯のような要領で巻いていく。几帳面に巻き終えたものを確認し、奈々瀨は満足そうに頷いた。
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