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ぽつり、と小さなつぶやきが隣から聞こえた。声を発したのは、冷華。彼女の目線は正面の黒を捉えているようで、どこか違うところを見ていた。
(まさか...見えてないのか?)
そんな可能性が奈々瀨の頭をよぎった。彼女の言い分から見るに、その信憑性は十二分にあるだろう。しかし、一つ解せない点があるとすれば、先程から稔が霊の姿を捉えてるということだ。昔から、不明瞭ながら姿の外郭を視界に捉えていた茉紗とは違い、稔にはそれに準ずるものすら何も視えていなかった。
では、なぜ、今回に限って彼女の視界にその姿は映っていたのだろうか。
「深瀬、あそこに何が視えている?」
一応のために、目の前のアイツへ向けて指を向けながら問いかけた。稔は、何を今さら、と首を傾げてこう言った。
「何って...黒いモヤモヤに覆われた小さい女の子よ」
「ええっ!?」「...女の子......?」
驚愕する茉紗と冷華とは対照的に、奈々瀨はようやく腑に落ちたと首を縦に振る。
(やっぱりか...)
稔にはやはり、悪霊が視えていない。その代わり、彼女にはそれの核となる部分が視えているのだ。これでようやく、祓い方が見えてきた。
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