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「わりぃな。俺の狙いはこっちだ」
突然、奈々瀨が動き出したからか、悪意の怨霊は標的を見失ったように顔を左右に振っていた。その様子を観察しつつ、彼は霊の横を通り過ぎる。すると、それは、教室の隅で固まっている稔たち三人を無視して、奈々瀨の方へと首をひねった。関節なんてものを丸無視したその動きは、気味が悪く、如何にも怨霊らしい、とそう思った。
霊の手がこちらを指し示す前に、それの背中であろう部分に手を入れる。教室にあった鏡面の中と同じ感触。しかし、悪霊にとっても稔の存在が何らかのイレギュラーとなっていたのだろう。羽化しても尚、消化しきれなかった小さな核が異物として内側から負荷を与えている。だからこそ、核の周囲にはより強い感情が黒く深く波打っている。
数刻の後、奈々瀨の手に求めていた感触が触れた。重く伸し掛かる泥の中で、ひときわ温かくツヤツヤとした球体。彼は、その球体を手に持ち、一気に背中から引き抜いた。取り出されたそれは半透明の黄色いガラス玉のような形状をしていた。
「わわっ!?ナナちゃんの手に女の子が...!!」
異形の怪物を挟んで正面から聞こえてきた彼女の声に、ようやく安堵のため息をつく。どうやら、これが核で間違いないらしい。
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