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唐突に自身の餌が消えた事実を処理しきれなかったのか、黒い霊は背中に空いた穴を埋めることに手こずっているようだった。その様子を横目で見送りつつ、奈々瀨は核を抱えて、三人がいる場所へ向かう。
「わ〜!かぁ〜っこいい!」
帰ってきた奈々瀨へ手を叩き始めた茉紗。この三人の中で、一番状況を理解しているのは彼女だ。現に、稔は奈々瀨の手にある核へと視線が釘付けだったし、冷華に至っては何も理解が及んでいないようで一人首を傾げていた。
「......何の話?」
決して大きくはなかったが、その呟きはやけに室内に響いた。だが、誰もその問いに答えを返そうとする者はいなかった。返す言葉がなかった、というのが正しいかもしれない。普通は目に見えない現象を説明されたところで、納得がいくはずもないのだから。嘘つき呼ばわりされるのが関の山だろう。
「俺がせっかく包帯を巻いてやったのに外れたらどうすんだよ。雪野、この馬鹿の面倒を見といてやってくれ」
「それがいいわね。茉紗のことも心配だし、冷華さんが見ててくれたら助かるわ」
冷華は奈々瀨の発言に何か言いたげな様子だったが、稔からの援護射撃を受け、少しの沈黙の後、首肯した。
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