第九章 「仲良し大作戦3 side奈々瀨」

58/63
前へ
/194ページ
次へ
「......わかった」  これで、後続の憂いは晴れた。奈々瀨は悪霊と正面から向き合い、静かに息を吐く。後は祓うだけでいいのだ。だが、数刻前のあの記憶が文言を紡ごうとした口を閉ざす。 (一体、あん時のは何が原因だったんだ。あの言葉に拒絶反応を示した霊なんて視たことがねえぞ) 見たことがないだけではない。分家の方でもそんな話は聞いたことがなかった。奈々瀨の内に、段々と焦りの感情が芽生えていく。 「ナナちゃん...?」 「すぅー...はぁー...。あの世のかたえに在りしものよ...」 二度目の文言を言いつつ、奈々瀨はポケットの中から仕事道具を探る。悪霊を祓うため、半人前には欠かせない代物だ。しかし、指先が震え、上手く目当てのものに辿り着かないでいる。その状況に、更に焦りを覚えながらも、彼は正面の木偶人形を見つめていた。  _その時だ。目の前に立つ真っ黒な能面から視線を感じたのは。続けて、奈々瀨の全身に何か嫌なものが這いずり回るような感覚を覚えた。絶対に奴を祓うことはできない、と言われているようだった。
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!

29人が本棚に入れています
本棚に追加