レンタル小説

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 仕事の帰り道、たまには気分を変えようと一駅分歩いてみることにした。電車の窓から見ると隠れてしまう看板なんかが視界に入る。飲み屋、銀行、不動産。その中でも高野の目に留まったのは『レンタル小説』という文字だった。  高野(たかの)は小説が好きで自然と足がそちらへ向かっていた。自動ドアが開くとよくある本屋といった感じで、違うのはレジの上のところにレンタル代が書かれているくらいだ。二週間三冊税込み九百八十円と良い値段で、さっそく高野は本を物色。  買おうか迷っていた本を三冊手に取りレジへ。これで次の休みはほんの世界に浸れると思うと高野に楽しみが出来た。足取り軽く帰宅し、日常を終える。三畳の部屋でも本は圧迫感がなくて助かる。  休みの日、さっそくレンタルした小説を読み始めた。最後の一冊を読み終え、カバーを外してみると『優和(ゆうわ)おばあちゃんいつもありがとう』と書かれていた。登場人物に優和という名前のキャラはいなかった。ではこれは……?  疑問に思ったが、高野は期日内に返却。しばらくしてまとまった休みになる前日、再びレンタル小説へと向かった。その道中、白髪の老人に声をかけられた。 「すみません、この口座へ振り込むのはこの銀行からでも出来る?」  ゆっくりとした喋りをする老人の手には一枚のメモが。そこには誰かの名前と高額な金額が書かれていた。高野は大丈夫ですよというと、振り込み方がわからないので手伝ってほしいと言われた。 「助かるねぇ~。これで孫が手術出来るよ」  話を聞くとある日、孫と名乗る人物から心臓の手術が必要でお金が必要、だから指定した口座へ振り込んで欲しいと電話があったみたいだ。その話を聞き高野は真っ先に振り込め詐欺を疑った。その声は本当に孫だったか、家族に確認はとったかなど聞くとやはり振り込め詐欺としか思えなかった。 「そうなのかい。いやぁ、孫にもらった小説はなくすし、詐欺にあってたら負の連鎖だったよ。ありがとう」  老人は軽く会釈をする。小説と聞き高野は思わずどんなものか聞いた。 「最後のページにおばあちゃんいつもありがとうって書かれてね。そんなになにかしてるわけでもないんだけど……」  高野はもしやと思い本のタイトルと著者を聞く。やはりこの間借りた本だった。高野はついてきてくださいと言いレンタル小説に行く。借りれられてなければいいがと思いながら探すとあり、一安心。確認してもらうと老人は顔をほころばせた。  店員にこの老人の大事な本なんですとカバーを外し文字を見せる。買い取れるか聞くと出来ますよと言われたので、代金を支払い本を購入。それを渡すと老人は何度もありがとうありがとうと言い深くお辞儀をした。  それから優和あばあさんと時々交流をし話をすると、優和あばあさんは高野の勤めている会社に勤めていたらしく、仕事についていろいろな話を聞けた。  話を聞き、参考にした高野は会社で上手くやっていくことが出来、忙しく本を読む暇が少なくなってしまったが、また時間が取れる時レンタルしに行こうと思う。
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