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沈黙がその場を支配した。風が二人の間を気まぐれに通りすぎ、いつの間に毛布から零れたみらいの髪を揺らした。細くて柔らかそうな髪が風に靡くのを目で追っていたら、「みくるは、」と少し高めの若干のアニメ声、みらいの声がやけにはっきり響いた。
「みくるは、誰かひとりでもみくるに夢を抱いてくれるなら、ずっとアイドルでいたいと思ってるよ」
──100点満点の答えだ。
想像通りに答えすぎて、嫌味のひとつも言いたいと思えなくて、ただ頷けば、なぜかみらいが泣きそうになっていた。
既に緩みかけた頬を掴む俺の手を握って、「でも、あの、ね、」と震える声を落とすからまた黙って頷いてやる。
「元春といる時は、ほんのちょびっとだけ、アイドルじゃなかったらな、って、思ったりもする。普通の未来になりたいなって、思ったりもする」
胸に鈍い痛みが走った。瞬間、響の言葉が頭の中で反芻する。
『みーくるを大事に思うことがあれば、元春は自分から離れてくと思う』
響のファンはあいつに似て、賢そうで食えない女が多い。隼弥のファンは元気で少し馬鹿っぽいやつが多くて、凪は見た目からしてメンヘラちっくなやつが多い。悠希のファンは大人しめかも。
俺のファンはちょっとチャラいやつが多いかもって言われた。
推してるアーティストの人間性に、ファンも寄ってくる。類は友を呼ぶって言葉はあながち間違いじゃない。だからずっと思ってる。
推すなら、みらいみたいな人間の方が、絶対人生楽しいし、裏切らないし。夢を与えるという役割を間違いなく果たしてくれるって、柄にもないクサイことを思ってしまうくらい、こいつの仕事に対する思いとかにすっかり感化されてしまった。全く俺らしくないんだよ、まじで。
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