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「……俺は、アイドルじゃない枢木 みくるには興味無いけどな」
だから傷つけると分かっていても、酷い言葉を口にした。みらいの綺麗な顔が少し歪むから、思わず目を逸らす。
俺ごときで迷うなと、こんなお前のこと蔑ろにする男の前で、隙だらけの言葉を口にするなよ。お前を推してるオタク達が悲しむぞ、なんて。色々言葉が巡ったけど、結局何も言わなかった。消してしまった煙草が目に入って少し後悔する。
「……もとはる」
「……なに」
「やっぱり、今日、優しいじゃん?」
「……」
「いつもはみくるのことなんて何も考えてくれないくせに、こういう突き放す時だけ大事にしてくんの、」
俺はみらいが泣いてるところを見たことがない。それこそセックスの最中に零す生理的な涙以外で、こいつの泣いてる姿をただの1度も見たことがない。
悲しみを心に押し込めて、みらいは晴れやかな、完璧に美しい笑顔を浮かべた。
「ほんと、そーいうとこなんだよなぁ!
だからずっと、推し変できないの!」
ぎゅっと抱きついてくるみらいを、抱き締め返さない理由がどうにも思いつかなくて、暖かな温もりを腕の中に閉じ込める。
「……そういうとこってどういうとこだよ」
「言わなーい、言ったら魅力半減するし」
「……みらい」
「ん?」
「アイドルでいるうちは、誰か好きになったりもしねーんだろ?」
「……、それこそ特大ブーメランなんだけど」
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