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レモネードを眺めている横顔は、あの頃のままだった。
「永島さんって、俺のこと嫌ってると思ってた」
「……あなたみたいに自分に正直に生きている人は嫌いじゃないわ。私にはないものを持っているから」
「俺からすれば、永島さんの方がしっかり地面を踏み締めて生きているように思うけど」
「それはどうかしら……今は何が正しいのかもわからないもの」
昔は頑ななその姿が、自分の意志を持っている強さに見えた。だが今は、その姿にどこか脆さを感じる。
「あなたはどうなの? もう結婚はした?」
「生憎、そういうものとは縁遠いんだ」
「バーテンダーなのに? 恋人は?」
「今は一人が気楽で」
「……意外ね。先生と空き教室でイチャイチャしてた人の発言とは思えないわ」
「どうかな。軽い関係の方が楽なのは今も変わらないかな」
「……つまり女には苦労してないってことね」
どこか寂しげな様子の瑛里華に、俺は意を決してあのことを尋ねた。
「あの時どうしてキスしたの?」
彼女の動きがピタリと止まり、視線だけが泳ぎ始める。
「それに……俺のポケットから取っていったものがあるよね」
そこまで言うと、視線すらも止まり、ただ下を向いた。
「……帰るわ」
「えっ……ちょっ……永島さん!」
突然立ち上がると、足早に店を後にする。ここで彼女を帰したらいけないような気がして、俺は慌てて追いかけた。
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