ある最終回が描かれるまでの話

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 寝室を出て、豊嶋彰(とよしまあきら)はいつものように廊下を歩き、階段を降りた。  リビングに行くと、妻の彩花(あやか)と小学一年生の息子である颯太(そうた)がいた。妻はキッチンに立ち、颯太はテーブルで俯いていた。 「なんだ、颯太、また何か怒られたのか」  豊嶋が声をかけると、颯太はハッとなって顔を上げた。目は真っ赤に充血していた。豊嶋は柔らかな笑みを浮かべながら颯太へ近づくと、彼の頭をくしゃくしゃと撫でた。 「彰、藤平さんが――」 「ああ、わかってるよ。11時に来るんだろう?」  豊嶋は妻の言葉を遮りキッチンへと足を進めた。彩花の後ろを通りぬけて、冷蔵庫の扉を開けた。 「お、ちゃんと補充されてる、アヤカ、ありがとな」  そう言いながら豊嶋はカフェラテのペットボトルを取り出した。豊嶋の好むメーカーのもので、いつもなくなると彩花が補充してくれている。 「うん。彰、何か食べる?」 「いや、このまま作業部屋行くよ。あとで食べる」 「わかった」  豊嶋は、ペットボトルを持ったままリビングを出て行こうとした。そのとき「彰」と彩花に名前を呼ばれて、豊嶋は振り向いた。 「何」 「あのさ……」 「うん」 「あんまり……無理しないで」  どこか憂いを帯びたように思える幼い頃から知る妻の表情に、豊嶋は「大丈夫」と告げて、リビングを出て行った。
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