ある最終回が描かれるまでの話

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*  豊嶋は少年週刊誌で長年続く連載を持っていた。「青く揺れる空の下で」。単行本にして30巻を超えており、アニメ化、映画化を果たしている。  長きに渡る連載だったが、この日、豊嶋は最終回の方向性を編集担当である藤平と話すことになっていた。  外にスタジオなどを構えず、豊嶋は自宅の一部を改修して作業部屋に当てている。二十畳の部屋で豊嶋はiPadで前日に描いていたネームの続きを描いていた。  10時55分、いつものように設定時間の5分前に藤平はやってきた。 「おはようございます!」 「おう、おはよう」  細身の背の高い男が頭を下げた。ラフな格好でいいと何度言っても藤平はスーツでやってくる。  連載2年目から編集として担当してくれている藤平を豊嶋は誰よりも信頼していた。彼と話し合ってきたから、いま「青く揺れる空の下で」は最終回を無事に迎えられようとしている。 「早速、始めましょうか」  藤平はスーツの上着を脱ぎ、ソファーに座った。豊嶋は「おう」と頷き立ち上がり、藤平の正面側のソファーに座り、ネームを保存してあるiPadを藤平に手渡した。 「拝見しますね」  そう言うと、藤平はネームをスライドしながら読み始めた。
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