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 扉を開くと、カララン、と転がるような音がした。  このレトロな喫茶店のような音はレンタルビデオ店にはそぐわないといつも思う。 「よお少年、最新作出てるぜ」 「それよりお客さんが来たら立ったほうがいいんじゃないですか?」 「少年は子供だからわからねえかもしれんが、最近の接客トレンドは座りレジなんだよ」  レジカウンターに肘をついて座る店長は飄々とそんなことを言った。  ちなみに僕が店長と呼んでいるのは彼の胸に『店長』と書かれた名札が付けられているのと「俺が店長だ」と自分で言っていたからだ。もしかしたら『店長』というあだ名の近所のお兄さんだったとしても僕には判別できない。  まあ僕にとってはレンタル対応さえしてくれれば店長だろうと変なあだ名のお兄さんだろうと問題はなかった。 「じゃあこれ借ります」  店長の教えてくれた最新作のDVDをカウンターに乗せる。  彼は「はいよ」と短く答えて、椅子に座ったままバーコードを読み取った。本当に今の流行りは座りレジなのかもしれない。 「ん?」  僕は見慣れたはずのカウンターの奥に見慣れない看板を見つけた。  それはどうやらお手製の看板のようで、四角に切られた段ボールに油性マジックで手書きされている。  その歪な文字の意味が、僕にはわからなかった。 「お、少年。いいところに目をつけたな」 「なんですか、これ」 「うちの新商品だよ」  ばんばんと店長は段ボール看板を叩く。その衝撃で小さく皺が寄ってしまった。歪な文字がさらに歪む。  しかしたとえ綺麗な文字で印刷されていたとしても、僕にその言葉の意味はわからなかっただろう。 『引力はじめました』
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