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「引力ってなんですか」 「引く力。引き合う力だ」 「いやそういうことじゃなく」  店長は首を傾げる。いやこっちの仕草だそれは。 「なんでそんなのがレンタルビデオ店に?」  僕が尋ねると、店長はやれやれと両手を広げた。  そんなこともわからないのか、と馬鹿にされているのが伝わる。わかるか。 「たとえば映画観てるとき、ふとポテチが食べたくなるだろ? でもポテチはあとちょっと手が届かないところにある」 「それで?」 「ポテチ取りたいけど映画が視たい。映画観たいけどポテチが食べたい。そんなときこの引力を使えば、映画を観ながらポテチを手元に引き寄せられるってわけだ」 「発想が堕落してる」  人類史上ここまで雑な引力の使い道があっただろうか。人の欲望は尽きない。 「そうは言ってもな、少年。俺たちも色々大変なんだよ。最近は動画のサブスクが充実しすぎてレンタルなんてされやしねえ。このままじゃ駄目だって色々考えててな」  確かに、と僕は店内を見回す。  この店には何度となく通っている僕だが、今まで他の客がいるのを見たことがなかった。本当に厳しい状況にあるのかもしれない。 「で、どうよ。レンタルするかい?」  店長はまた段ボール看板を小突く。  僕は少し迷って、財布を開いた。
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