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「助けてくれてありがとう、木引くん」
ぺこりと日吉さんは頭を下げた。
まさかスズメに襲われてたのがクラスメイトだったとは驚きだ。
「でもすごいね。木引くんあっという間に追い払っちゃって」
「いや、僕は何も」
謙遜ではなく、僕は本当に何もしていなかった。
初めは引力を使ってスズメをこちらに引き寄せようとしたのだが、まったく引き寄せることができなかったのだ。
――引力は引き寄せ合う力。力が強い方に寄ってくんだ。
店長の言葉を思い出す。力とはつまり質量。重さだ。
僕の引力よりスズメのほうが重かったのかもしれない。それでもスズメが逃げたのは単に人間が二人になったからに過ぎなかった。
やっぱり引力(中)にしておくべきだったか。僕は内心で悔やむ。
***
・引力(弱) 5,000円
・引力(中) 50,000円
・引力(強) 500,000円
レジカウンターの奥にあるお手製の段ボール看板には三つのメニューが記されていた。端に『※7日間料金』と書かれているので、レンタル一週間の金額ということだろう。
「弱ってどの程度の強さなんですか?」
「四人掛けテーブルの端にあるリモコンを引き寄せられるくらい」
「腕を伸ばせ」
そこまでしなくなるのは人としてどうなんだろうと思うけれど、正直興味はあった。
だって、引力だ。
引力を使う機会なんてそうそうない。あるわけない。てか引力レンタルって未だによくわからない。
「引力を借りるってどういうことなんですか」
「お金を払えば引力を発動できるようにしてやるってことだ」
「どうやって?」
「あ、そりゃあ言えねえよ。他の店に真似されたら商売あがったりだ。企業秘密ってやつだよ」
企画成功の秘訣は秘密を持つことだぜ、少年。
店長はにやりとする。
まあ確かに、こんな大発明は独占しておくのが商売としては正しい気がする。
もしこの『レンタル引力』が世に知れたらきっとこの店は大繁盛するだろう。予約も数年先まで埋まってしまうに違いない。
高校生の財布事情からすれば痛い金額だが、借りるなら今だ。
「これも借ります」
「まいどあり」
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