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 これは、もしかしたらデートかもしれない。  休日に連絡を取り合って、どんな服を着ていくか悩んで、駅前で待ち合わせをして、男女二人で遊びに行く。  映画で何度も見たことがある。そうだ、これはデートだ。  ……いや待て。落ち着け。  映画で見たことがすべてとは限らない。あれはフィクションだ。フィクションを真に受けてリアルとのギャップに落ち込むなんてよくある話じゃないか。  彼女を助けたあの日から延々と『これはデート』派の自分と『現実を見ろ』派の自分の論争が繰り広げられている。この議論は留まることを知らず交わされ続け、結論の出ぬまま当日を迎えた今も頭の中ではそれぞれの主張が展開されていた。  そもそも僕の中に答えはないのでは、と気付いたとき「木引くん」と名前が呼ばれる。 「ごめん、待った?」 「いや今来たとこ」  あ、やっぱこれデートだ! この定番のやり取りはデートで間違いない!  いやいや待て。落ち着け。  こういう確信を得た瞬間が一番危険なんだ。そもそも今まであまり話したこともなかったクラスメイトを急にデートに誘うはずがない。  僕は冷静さを取り戻した。 「よかった。じゃあ行こっか」 「そうだな。チーズケーキ楽しみだ」  どうやら日吉さんには行きつけの喫茶店があるらしく、そこのチーズケーキが絶品だそうだ。僕も甘いものは好きなので今日はそこに連れていってもらう予定になっている。  喫茶店でケーキを食べて帰る。うん、やはりこれはデートじゃない。おやつだ。 「うん、私も久しぶりだなあ。……あ、そういえば木引くんって映画好きなんだよね」 「え、ああうん」    よく知ってるなあ、と意外に思ったが、そんな些細な疑問は次の言葉で掻き消される。 「じゃあせっかくだし今日一緒に映画観に行こうよ」  あ、やっぱこれデートだ!
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