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「映画と言ったらポップコーンだよね」
「……そうだね」
「あれ。木引くんホットドッグ派だった?」
「いや、よく食べるのはわらび餅かな」
「映画館ってわらび餅あったっけ」
右手に大きなポップコーンのバケツを持ち、左手にコーラのコップを持った日吉さんは首を傾げる。それだけの動作をどうしてこうも愛らしくできるのかわからない。
彼女は不思議な魅力の持ち主だった。
クラスでは大人しく目立たないタイプだと思っていたが、こうして傍にいるとどうしてか僕の目は彼女を追ってしまう。
何気ない仕草ひとつひとつに惹きつけられ、気を抜くと思わず手を伸ばしそうになる。
このままじゃまずい。本能的にそう感じて、僕は話を変えた。
「日吉さんはこの映画館よく来るの?」
「うん。家から近いから。木引くんは?」
「いや、僕はあんまり」
映画は好きだが、映画館にはあまり来たことがなかった。
フードメニューにわらび餅がないからというわけではなく、単に映画館が僕の家から遠いというだけだ。
映画館までの往復の時間を考えると、もう一本映画を観られる。そんな損得勘定が働いてしまうのだ。
「あ、入場始まったみたい」
彼女の視線を追うと、入場口に人が集まり始めていた。
あの人々が全員僕たちと同じ映画を観たい人々なのかと思うと、なんだか不思議な感じだ。
みんな同じものを観て、きっと違うことを想うのだろう。映画は本当に面白い。
「じゃあ行こうか」
「うん、楽しみ!」
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