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「何回同じミスを繰り返すんだ!いい加減にしろッ!」
ブラインドから昨日と同じように初夏の朝日が射しこむオフィスに、今日もまた罵声が響きわたった。
社員たちからすれば、爽やかな朝の空気を台無しにされてやる気が削がれそうなものだが、誰も気に留めない。せいぜい聞き慣れた雑音といった風に、音のする方をちらりと見やる者が何人かいるくらいだ。
騒音の発生源は営業第二係の席。係長の高倉が禿げた頭に血管を浮き出しながら口角泡を飛ばしており、高倉の前に立たされていた新戸はその泡を俯きながら浴びていた。
「申し訳ありません!何度も確認したはずなんですが……」
と新戸は遠慮がちに弁解を試みたが、高倉は取り付く島もない。
「言い訳するな。せこせこエクセルいじってるくせに、単純な入力作業もできないのか、この役立たず!」
と吐き捨てた。
罵詈雑言の嵐を前にして、風雨に打ち付けられて茎がひん曲がった雑草のように、新戸はじっと頭を下げていた。
生来我慢強く、また根が優しい男で、風貌も好青年風だったが、それがまた高倉の癇に障るらしい。
今朝も長くなりそうだ……と近くの席の社員が半ば呆れ顔でノートパソコンを起動したとき、高倉の胸元から電話の音が鳴り響いた。
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