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後に残された新戸はいつもより短くて済んだと胸を撫でおろしたが、誰も新戸を労らず、淡々と自分の仕事に向かっている。
ただキーボードを叩く音や電話の呼び出し音が新戸を取り囲んだ。その音に混じって、あいつ最近いつも怒られてね?とかエクセルで遊んでるからだろ?とか話し声が聞こえてきたが、聞こえないふりをして自席についた。
高倉から指示された作業の締切は今日の昼まで。エクセルに売上や経費、請求金額などを入力していくという単純なものだが、入力した後の分類や集計、帳票作成も含むと結構な手間だ。
新戸が担当になってからエクセルファイルを改良し、多少ましになったものの、まだまだ効率的とは言い難い。
もっとも、高倉や他の社員にはそんな新戸の努力も遊んでいるようにしか見えないらしい。曰く、黙って手入力するのが仕事の本筋だという。いまどき便利なソフトも色々あるのになぜこんな古いやりかたを、と抗議したこともあるが、まったく聞き入れられなかった。
それだけではない。なぜか他の社員が担当している案件の入力も押しつけられているうえ、新戸の前任が作成した資料の作り直しや、その前任が受け持っていた取引先との種々のやり取りや外回りもある。
前任は高倉にいびられて心を病み、もう長いこと休職していた。取り急ぎ入力し直して他の案件に取りかかるしかないだろう。
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