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「この作業、ほんと手間がかかるよな。いっそ、マクロでも組んでみるか?」
ため息をつき、ペットボトルの水をひと口飲んだ。
何度も確認したはずなのに、ともう一度頭の中で弁解しながら、請求書や発注書の束の内容をエクセルに入力し始めた。そのほとんどは、スズメ製菓のロングセラー商品、キャラメルを絡めたスナック菓子の販売に関するものだ。
スズメ製菓は規模こそ大きくはないが歴史ある製菓会社で、主力商品のスナック菓子は1974年に発売されて以来、長年の間多くの人々に愛されている。
新戸は幼いころからこのスナック菓子が大好きだ。幼稚園や小学校のころの遠足には必ずこのお菓子を持っていきたいと親にせがんだし、なけなしのお小遣いを握りしめて自分でも買いに行った。中学、高校、大学と勉学に勤しむ彼の傍らにはいつもこのスナック菓子があった。大学三年生になり就職活動を考えるころには自然と、この素晴らしいスナック菓子を作る仕事に就きたいと考えるようになっていた。
今も通勤鞄にはそのスナック菓子を忍ばせてある。とはいえトレードマークの黄色の包装袋のままではなく、わざわざ100円ショップで売っているようなフタつきのケースに取り分けてある。小腹が空いたら何個か食べられるようにしたのだが、今はあまり食べる気がしない。
自分が企画部に行ったら、デスクの片隅に置けるよう、ガムのような小型のボトル状ケースに入れて売り出す案を提出したい。上司のいびりも周囲の冷たい視線も、それまでの辛抱だ――。
そんなことを考えながら、新戸はキーボードを叩き続けた。
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