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「おい、『スーパー大八』への販路拡大の件、指示したのはいつだ?なんで話が進んでねえんだ」
昼休みを終えて執務室に戻ってきた社員たちの眠気は、高倉の怒鳴り声で吹き飛んだ。
新戸は高倉の席の脇に立たされていた。
「……申し訳ありません。先週の金曜日、ですね」
今日は月曜だけど、と心の中で付け加えながら、新戸は答えた。
しかも、指示を受けたのは金曜の夕方、定時も過ぎようかという頃だった。そんな時間に突然売り込みをかけるわけにもいかず、そのうえ先方もこちらも土日休みでは連絡の取りようがなかった。取り急ぎメールを送ってあるが、まだ返事は来ていないようだった。
「……俺の指示が遅いってのか?」
「いいえ、そういうわけでは……」
「遅いのはお前だろッ!!」
歯切れの悪い回答に不満の匂いをかぎ取ったらしい。高倉はバンと机を叩いた。無関心を決め込んでノートパソコンに向かったり打ち合わせをしたりしていた同僚たちも、さすがに二人を見やった。
「申し訳ございませんッ」
必死に頭を下げるしかなかった。こうして嵐が過ぎ去るのを待つしかない。いつか雲の隙間から、企画部への異動という光が射しこむのを待つしかないのだ。
だから、何気なく放たれたその言葉は、荒天を何とか耐えしのいでいた新戸を焼き尽くす、雷の鉄槌のようだった。
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