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哀悼の涙はレンタル出来ない
おれは新聞を読んでいた。リビングで朝食を食べながら新聞を読むのはおれの毎朝の日課である。
世は事もなし、地元プロ野球団の提灯記事が一面にあり、総合面は賃上げ交渉に成功したとか、ガソリンが値下がりすると言った平和な紙面で安心する。
ペラペラと読み進めてると、近郊版のページに差し掛かった。
近郊版の田舎記事もやはり平和なもので、地元動物園で狸の赤ちゃんが生まれたとか、月下美人の花が一度に十輪も咲いたとか、穏やかな記事ばかりである。こう言った記事の下部には地元で亡くなった者の名前を乗せる欄がある。訃報掲載欄、通称、お悔やみ欄である。
幾人もの名が載せられているが、いずれもおれとは縁もゆかりも無い者達。
名前を見たところでどうと思うこともない。だが、その日は事情が違っていた。その中におれの知っている名があったのである。
名隈信吾(なぐま しんご)さん、同市9丁目。6日、42歳。8日18時メモリアルホールエンシェント、喪主父正留(まさる)氏。
名隈信吾はおれとは同級生で幼馴染の親友だ。幼稚園から中学卒業までは一緒だったのだが、高校が別々になって以降はずっと疎遠になっている。おれが大学に入り、地元を出てからは正月の帰省の際に見る年賀状のみがおれとあいつとの唯一の繋がりになってしまっていた。
おれが就職して数年が過ぎ、運命の悪戯か地元勤務となり、実家の近くに住むようになったのだが、社会人かつ家族も儲けていたことから忙しく久々にあいつと会う機会すらもなかった。そもそも、あいつが地元にいたことを知ったのはこのお悔やみ欄を見て初めて知ったことである。
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