哀悼の涙はレンタル出来ない

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 通夜当日を迎えた。名隈信吾の通夜と本葬が行われるメモリアルホールエンシェントは繁華街の中央にあり、交通の便も良い。駐車場も広く車が停めやすい。おれは駐車場の隅に車を停め、涙で鼻を啜る葬列を掻き分けながらメモリアルホールエンシェントの中に入った。おれはこの葬列を見て「あいつのためにこんなに泣いてくれる人がいるなんて…… よっぽど慕われていたんだな」と、感動を覚えてしまった。  おれは受付に香典を差し出した。受付にいたのはあいつの母親と思しき老婆だった。おれからすれば大体20年以上の時を経て久しぶりに見る「おばさん」だ。あいつの家に遊びに行った時にはよくお菓子を持ってきてくれた人だ。懐かしい。しかし、外見が変わりすぎである。あの当時は恰幅の良い肝っ玉母さん風だったのに、今、目の前にいるのはやせ衰えた昔話に出てくるような老婆ではないか。失礼ながらに年月の流れの残酷さを痛感するのであった。 「この度は、ご愁……(ゴニョゴニョ)」 おれは忌み礼儀に従いおばさんに挨拶をしながら、香典を差し出した。すると、おばさんは驚いた顔をしながらおれの顔をマジマジと眺めてきた。何か顔についているのだろうか? おれは首を傾げながら顔をペタペタと触った。 「あれ? あなた…… レンタル会社の方じゃ…… あの、どちら様でしょうか?」 何だかよくわからないが、名前を尋ねられてしまった。 20年以上も顔を見てなければおれのことを忘れるのも仕方ない。おれはあいつの友人である旨を説明した。 すると、おばさんは思い出したように「あーあー」と納得したような顔をした。 「久しぶりねえ。ちょっと良いかしら?」 おばさんは近くにいた親戚に受付を任せ、おれを遺族控室へと案内した。遺族控室に着くなりにおばさんは疲れ切ったように腰を下ろした。おれもそれに合わせて腰を下ろす。 「まさか、あの子の友達が来るなんて…… 考えてなかった」 「え?」 「それにしても、ホント久しぶりね? 20年以上ぶりくらい?」 「中学卒業以来なんで、大体このぐらいになりますね」 「そう…… 『知らない』のも仕方ないか。ちょっとアレな話になっちゃうんだけど、聞いてくれないかな?」 おばさんは中学卒業以降の名隈信吾(あいつ)の波乱万丈ながらに穏やかな人生を語ってくれた。
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