哀悼の涙はレンタル出来ない

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 まず、名隈信吾は進学した高校で壮絶なイジメに遭い、一年で退学し、それ以降はずっと引きこもりとして自分の部屋と居間を往復するだけの生活を送っていたとのことだった。 両親共にあいつを立ち直らせようと「高卒認定」を自宅受験で取得させ、通信制大学にも通わせ卒業し、縁故(コネ)での就職も成し遂げたのだが、長続きせずに引きこもり生活に戻ってしまった。 そして迎えた42歳の今、入浴中にヒートショックを起こし溺死。短い人生の幕を閉じてしまった。 おれはおばさんに何と声をかけていいかがわからなかった。おばさんが痩せ衰えたのも、高齢の引きこもりの息子を見捨てずに向き合ってきた結果だろう。あいつ…… こんなに優しいおばさんを悲しませるような真似して、何やってるんだよ! おれはヒートショックと言う事故死でありながら、あいつに対する怒りと悲しみが込み上げ、汗に滲む拳を握ってしまった。  すると、遺族待機室に一組の夫婦が入ってきた。おばさんは素早くスッと立ち上がり、その夫婦をあいつが眠っていると思われる遺族控室の最奥へと案内した。 おれは暫くの間、その場に放置された。時間にして10分程であるが、2時間3時間にも長く感じられるものだった。 その夫婦が帰った後、おばさんはやっとおれの元へと戻ってきた。
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