哀悼の涙はレンタル出来ない

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「ごめんね。待たせちゃって」 「いえ……」 「あれ、あたしの妹なのよ」 正直、失礼なことを言うと、おばさんが母親で、その妹が娘だと言われても違和感がないと感じてしまった。そのぐらいにおばさんは老け込んでいるのであった。 「でね、さっきの話の続きなんだけど…… 実はあの子が引きこもりだったってことは親戚みんな誰も知らないのよ」 「まぁ…… 言い辛いですよね……」 「お盆や正月になって親戚がうちに来ても、あの子、部屋から外に出なかったのよ。あたしも『引きこもってる』って言えないから、友達の家に泊まりに行ったとか、部活の合宿とかって適当に誤魔化してたの」 「最近は親戚同士も疎遠になってますからね…… 簡単に誤魔化せますね」 「やがて、あの子と同い年の従兄弟が結婚するようになって、その話をするだけであの子は荒れるようになりました。更に年月が流れて、上の従兄弟の子供(はとこ)が結婚するようになって余計に荒れるようになったの。その従兄弟の子供はあの子が小さい時に世話をしていた子、劣等感に苛まれるようになったのでしょう。その子も結婚式にあの子を呼んだのですが…… 絶対に行かないの一点張りで。あの子の中では親戚とは一方的に縁を切っていたんです」 もう、言葉が見つからない。分かるのはとにかくおばさんが息子の存在を親戚に隠し通したいということだけだ。おそらくは親戚同士のマウントの取り合いや恥ずかしいと言う思いから来るものだろう。そして、情けない自分を親戚に晒したくないと言うあいつの考えと合致して、親戚から縁を切ることに協力していたと言ったところか。 そのはとこもただ純粋に親戚のお兄さんに結婚を祝って欲しかっただろうに…… それがあいつを精神的に追い詰めることになるとは微塵も考えないだろう。善意と尊敬の刃があいつの心を刳り刺す。残酷なものである。 おれは返事をせずに頷くことしか出来なかった。 「それで、あの子が亡くなって初めて気がついたんです。あの子には『あたし達夫婦』以外誰もいなかったことに。当然、参列者もいるはずがありません」
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