壱「曲がり道」

2/13

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/64ページ
タイチが「万座毛の夜空が見たい」と言い出し、運転するユキトに頼んだ。 途中までタイチに従って俺たちは一般道から恩納村の入り口まで車を走らせていた。既に時刻は21時を過ぎていた。 運転の疲れが顔に見えるユキトが痺れを切らせて「帰る日でもいいだろ別に」と言った。 確かに面倒だ。ただでさえ半日も遅れたのに渋滞に巻き込まれながら何時間も走らされてヘトヘトだろう。 「夜の街並みも綺麗なんだよ、ほら見ろよ」とタイチは笑った。明るい奴だが自分勝手だ。学生の頃から変わらない。 「だから帰る日の夜に見たらいいじゃないか」 「明後日は昼の便で帰るんだぞ?」 「じゃあ明日の夜に見たらいいじゃないか」 「ついでだよ。初日に散々だったんだ、ついでに夜景を見てそれでチャラにするんだよ」 「なんで男連中3人で夜空見なきゃならないんだ! 明日地元のギャルをナンパして一緒に見た方が断然いいだろ!」 2人が言い合いを始めた。俺は間に入る事にした。キリがない。 「2人ともやめろ。空見上げたら星が見えるだろ。それでいいじゃないか」 「……エモい事言ったと自分で思ってるだろ? キモ。カズマキモ」とタイチとユキトは2人揃って笑い出した。 俺たちは道を引き返して、ホテルへ戻る事にした。 その帰り道の事だった。
/64ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加