背徳と闇の帷ー01

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眠っているのか眠っていないのか、わからない。 ただその悪夢から逃げたくて、混乱する頭と心臓で必死に目を開けていた。 0.ワセの話 そんな中、スマホの着信音で意識が戻った。 段々と覚めてくる頭で、悲惨な風景から帰ってくる。 それがただの夢だと認識出来て、やっと安心した。 こんな悪夢に脳と心臓の寿命を縮めるくらいなら、睡眠薬なんて飲まない方がいいんじゃないか。 そうも思うのだが、流石に二徹をするのは体が辛かった。 おはよう 頭の中で、誰かが言った。 (おはよう) ワセは目覚めの挨拶を返す。 どうして体を休めさせた瞬間に、気持ちが落ち込むのか。 この現象に名前が欲しかった。 頭痛と倦怠感の中、眠れもしないのに目を閉じる。 しかし、それすら嫌だった。 朝になってしまったね また1日が始まる (うん。無意な1日が始まる) 作らなきゃ、という脅迫概念に押し潰されそうになりつつも、肉体はそんな力も無い。 溜息の様な呼吸をしながら、唯一出来るスマホに手を伸ばした。 (元気?は、無いと思うけど、昨日はありがとう。ガリィさんにそう伝えて) そのLINEを見て、ああそういえばガリィが灰色荘に行ったんだった、と思い出す。 (ガリィさんから話は聞いた?) (うん、ぼんやり覚えてる) 多重人格にも色々有るが、ガリィは記憶を共有してくれるタイプだった。 (焼肉美味しかった) (なら良かった。ガリィさんは肉好きなんだね) そうなの?と脳内で問うと、まあね、と返ってくる。 (入居祝い、ボクから出来なくてごめん) (ううん。ガリィさんに祝ってもらったし) (また今度何かプレゼントあげる、ってユウリに言っといて) その文には了解のスタンプで返された。 ワセはスマホを閉じて手放す。布団の中で身じろぐと、背中に温かさを感じた。 ガリィが、抱き締めてくれたのだ。 (昨日出てもらって本当にごめん) 気にしないで、君が辛い時の為に我は居るからね ガリィはいつも優しく寄り添ってくれる。そんな彼が居るから、ワセはまだ生きれていた。 脳内でそう考えると、ガリィは小さく笑う。 当たり前だが、脳内の恋人には、全て筒抜けである。 ああ、こういう時に恋人同士はキスをするんだろうな。 唇を触りつつ、ワセはそう思った。 多重人格の人間は、大体がDVでその症状になるのだとテレビで見た。 しかし、ワセの両親は優しい。 一人暮らしも許してくれたし、週に一度料理を土産に顔も見せてくれる。 ワセは、楽な生活をしていた。 しかし、その幸せも受け止めきれなかった。 常に有る、劣等感と罪悪感。 それに押し潰れそうになりながらも、生きていた。 だから、創る事でその感情を押しやっている。 でも、その誤魔化しも辛くなってきた。 ガリィは背中を叩いてくれている。 その後も、脳内の恋人の話を聞きながら、ただ目を瞑って時間を無為に過ごしていた。
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