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「しばらくお待ちくださいませ」
女性はそう言うと、引っ込んで行った。
二間続きの広々とした和室の一つに座卓が置かれていて、私達は向かい合って座り、一息ついて、開けられた障子の向こうに広がる小さな庭園の様子を眺めた。
つくばいがカタンと音を立て、水桶の中に雫の落ちる様子が見えた。さっきまで駅前の繁華街や住宅街を通ってきたのでここはまるで別世界のように落ち着いた空間で、気持ちが自然と凪いでいくのがわかった。
やがて先程の女性が温かいお茶を運んできてくれて、自分は女将だと名乗り、正座をして丁寧にお辞儀をしたのち、注文を取ってくれた。
それからあまり待たずに女将さんと共に紺色の着物にえんじ色の前掛けをかけた別の女性がやってきて、二人ですき焼き鍋の用意をしていった。
白い大皿には綺麗な霜降りの牛肉が薔薇の花みたいに並んでいて、もう一つのお皿にも焼き豆腐、花模様に象られた麩、しらたき、春菊、しいたけなどの具材が綺麗に円を描いて盛られていた。
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