202人が本棚に入れています
本棚に追加
「ご馳走様でした」
満腹とお腹に手を充てて自然に笑顔になったわたしに和久井君は目を細めて笑うと、座卓の隅に置かれたメニューを手に取った。
「まだいけるよね?」
「は??」
和久井君はにやと笑って、座卓の上の呼び出しボタンを押してしまい、やってきた女将さんにお肉の追加注文をした。
「春菊とネギも追加で。あ、豆腐も食べる?」
「えっ、ああ、わたしはもう……」
「そう言わずに」
女将さんが承知いたしましたと引っ込んで、和久井君はまたもぐもぐと美味しそうにお肉を食べる食べる。
「和久井君って、よく食べるんだね」
「普段はそうでもない。でも、今日は最後の晩餐だから心置きなく食べとく」
「え?」
「だってまた葉波さんと来たくても来れないでしょ」
そう言って微笑む和久井君の真意はどこにあるのだろう。彼ならわたしでなくても誘えば来てくれそうな女の子たくさんいそうなのに。
「それとも彼氏に黙ってまた、俺と会ってくれたりする?」
「……」
「そんなことしなそうだから、きっと最後だろ?」
またもぐもぐと美味しそうにお肉を頬張る和久井君に良心が痛む。
「あの、あなたに謝らなきゃいけないことがありまして」
わたしは箸を置き、崩していた足を真っすぐにして正座し直した。
最初のコメントを投稿しよう!