この古い家の話

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その家は傷んだ家だった。 門は傾き、錆び付いていて、そこから見える庭は、雑草がびっしり茂っている。 家自体は傾いてはいないが、所々蜘蛛の巣が張っていた。 綺麗に手入れされていれば、広さもあるし豪邸にも見えないこともない。 でも、今は近所からは、お化け屋敷だと呼ばれる程、外から見ているだけでも恐怖を感じる。 そこには、女性が1人、住んでいるらしい。 肝試しで、誰かが入ったとしても鍵が開かないし、入れそうな窓は雨戸が閉まっているし、住人を見た事はない。しかし、人が住んでいるのは確かなんだとか。 でも、それを幽霊だと言う人もいるとか、いないとか。 ある夕方。 傾いた門が開いていた。 偶然通りがかった男子高生が、ふとその門を見る。 今日は1学期の終業式だ。友達とファーストフードでランチをしたあとの帰り、いつもとは違う道で1人で帰っていた。 こっそりと覗くと、その家の扉が少し開いた。 "お化け屋敷が!" と後退りすると、綺麗な女性が顔を出した。 男子校生と目が合うと、ニコリと微笑み、「こんにちは」と挨拶してきた。 見たこともないような、美少女に挨拶されて、彼はアタフタと挨拶を返した。 「こ、こんにちは」 「良かったら、お茶でも飲んでいきませんか?同じくらいの年のお友達がほしくて」 美少女にそう言われて嫌な気はしなかった。 しかし、お化け屋敷に入るのは怖い。 彼女は明らかに生きている。ちゃんとした人間だと言うのは分かる。 ……しかし、幽霊でなくても、何だかこの家に殺されるかもしれないという恐怖が彼の心に渦巻く。 彼の顔から何か読み取ったのか、彼女は再びニコリと微笑んだ。 「普段、お化け屋敷と呼ばれているから怖いですよね。私、あまり、陽を浴びる事が出来ない体なので、雨戸を開ける事ができないのです。でも、部屋の中では電気をつけてありますよ、ほら」 彼女は扉をもう少し開けた。 ドアノブにかけた彼女の白い指に夕方の陽が当たる。 それを見て、何となく悪いと思った男子校生は、傾いた門を開けて、中に入った。 「ありがとう。私、小室舞です」 表札に小室と書いてあるのは知っていた。 「えと、俺は武村律、です」 「お茶は冷たい麦茶でいいかしら?あまり外へ出られないから、大した物がないけれど。 どうぞ上がって下さい」 嬉しそうな美人を見ると、やはり律も男だ。自分まで嬉しくなる。 部屋の中は、綺麗に掃除され、とてもお化け屋敷という雰囲気ではない。雨戸が閉まっているので、暗く感じるものの、電気はついているし。 ダイニングキッチンから続く8畳程の畳の部屋に通されて、そこで座って待つように律は言われた。 多分、ここの大きな雨戸をあければ、日光が入り、庭の雑草が鬱蒼と生えているのが見えるはずだろうな、と何となく思う。 振り返ると、キッチンで、舞がお茶を入れていた。 久々の来客なのか、少し慌てているようにも見える。 「あ、のお構いなく」 律は舞に声をかけた。 彼女は振り向き「ごめんなさい、手際が悪くて。今、そっちへ行くわ」 綺麗な薄いブルーのグラスに氷を浮かべたお茶がテーブルにおかれる。 「律さんは、高校生ですよね?何年生なのかしら?」 「あ、3年です」 「そうしたら、私と同じ年だわ、陽に当たれないから学校には行けないけど、ちゃんと勉強はしているのよ。父は…仕事で海外に。お母さんが締め切った家での生活につらくて、病んでしまって……父の後を追って今、夫婦で一緒なの。だから、この家は私1人」 「そんな…ひどい」 舞は首を左右に振る。 「仕方ないわ、お母さんの気持ち分かるもの。両親も罪悪からか、食べ物やモノに困らないようなお金は、かなり多めに出してくれているの。ただ、家を直す業者に入ってもらうのは、ちょっと私自体が厳しくて。あ、あなたは勘でなんとなく良い人だと思ったし、誰かれ声をかけているわけではないのよ」 「もし良ければ俺がいる時に門や、庭の手入れを頼んだらどうかな?」 舞は顔をパッと明るくしたが、小さく左右に首を振った。 「悪いわ、そんな。今日知り合った人に」            
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