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なんとも曖昧な答えが返ってきた。ただ、明確に否定しなかったために、私達の間では“黒須澪は霊能力者なんだ”という共通認識が広まっていったのである。彼女の手にかかればありきたりな都市伝説も怪談も、一風変わった摩訶不思議な物語へと変貌し、私達を異世界へと誘ってくれるのだから。
さて、ここまでが前提の話。
六月になって雨が増えると、彼女は教室で窓の外を見ながら言ったのである。
「由以子ちゃん、雨に纏わる怪談を知ってますか?」
「え?また面白いお話?」
「そうですね。由以子ちゃんにとっては面白いかもしれません。でも、あんまり面白がらない方がいいかもしれません」
その時も、私達はお昼休みにお絵かきをしていた。澪ちゃんは相変わらず、手足が無数に生えて背中からたくさんの触手を生やしている、よくわからないバケモノの絵を描いている。その体を、黒い色鉛筆でひたすら塗りつぶしながら。そいつは四つんばいで動き回るらしく、長いしっぽもあってトカゲにも見えるような風貌をしていた。トカゲよりも遥かに足の数が多かったけれど。
「今日は、ちょっと強い雨が降ってるじゃないですか」
彼女はニコニコしながら窓枠をなぞった。
「ぱた、ぱた、ぱた。雨の音は好きですか?」
「うーん、あんまり好きじゃないかも。眠くなってくるし」
「そうですか。教室の中で聞く雨の音と、外に出て聞く雨の音って違いますよね。特に、傘をさしていると雨音が頭上から特別響いて聞こえてくると思います。ぱた、ぱた、ぱた。……こういう雨の音って、いろんなものを紛れ込ませるのに最適なんですよね」
「紛れ込ませる?」
「はい。人混みと雨音って、弱いニンゲンは気を付けた方がいいものの筆頭なんです。見知らぬものが紛れていてもすぐには気づかない、気づけない。あっちもそれがわかっているから、まぎれて近づいてくるんです」
だからね、と澪ちゃんは笑って私に忠告したのだった。
「雨の日に、立ち止まって……傘を叩く雨音を数えてはいけませんよ。そうすると、引寄せてしまいますから」
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