ぱた、ぱた、ぱた。

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ぱた、ぱた、ぱた。

 これは、私が小学生だった頃の話。  クラスに“(みお)ちゃん”という凄く可愛い女の子がいた。さらさらの長い黒髪、雪のように白い肌、ぱっちりと大きくて睫毛が長い瞳。お人形さんみたいな美人さんで、しかも名家のお嬢様らしくいつも丁寧な言葉遣いで喋っていた。優しくて面倒見が良いので、男女ともに嫌われないタイプであったように思う。  というか、クラスの中心的人物と言っても過言ではなかった。誰かが困っていると大抵察して声をかけてくれて、一緒に問題解決に向けて努力してくれる。それが滅茶苦茶美少女なのだ。嫉妬を向けられることもあるかもしれないが、大抵の子に嫌われる理由はないことだろう。成績は良いけれど運動神経はあんまり、というちょっと欠けたところがかえって親近感を与えていたようにも思うのだ。  そんな人気者の澪ちゃんは何故か私の傍にいることが多い子だった。  もっとかっこいい子や可愛い子、魅力がある子なんかたくさんいるのに、どうして私みたいな平々凡々な女の子と仲良くしたがるのか。ある時一緒にお絵描きをしながら、彼女に尋ねたことがあるのである。 「え?そんなこと気になるんです?」  彼女は目をまんまるにして言った。 「だって、由以子(ゆいこ)ちゃんが心配だから」 「心配?」 「うん」  彼女はノートの上で、ぐるぐると右手を動かしながら言った。 「だって、要らないものにも好かれちゃうタイプでしょ?見ていて面白いけど、でも同じだけ心配になるから」  そんな彼女は、ものすごく画伯だった。一緒にお絵かき遊びをしていて、彼女が何を描いているのかわかった試が一度もない。この時は、真っ黒な体に十本以上も足が生えているタコみたいな怪物を描いていたのである。  彼女は、ニンゲンを描くことがほとんどなかった。そういう、得体のしれないバケモノを描くのが大好きだった。ニンゲンを描こうとしてバケモノになっちゃう、いわゆる“下手”とは違う。だって彼女は言うのだ。 「この子は、私の友達。ニンゲンじゃないけど、ある意味ニンゲンよりずっと魅力的なんですよ」
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