ぱた、ぱた、ぱた。

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 ***  人間。やるな、と言われるとやりたくなってしまうのが常なのである。ましてや、好奇心旺盛な小学生なら尚更に。 ――雨音を数えると、なんか面白いことでも起きるのかな?  その日も、私は澪ちゃんと遊ぶ約束をしていた。雨なので、行くのは澪ちゃんの家である。彼女は豪邸に住んでいるけれど、ご両親は忙しいのかまだ顔を見たことがないのだった。代わりに、とても若いメイドさんが出てきてお茶やお菓子を出してくれる。ゲームも豊富なので、彼女の家で遊んでいるとすぐ時間を忘れてしまうのだ。  ただ、そんな澪ちゃんは職員室に呼ばれることも多くて(何かの受賞であることもあるし、絵が独特すぎて先生に心配されてしまったりなんてこともあるらしい)、その時も私は少しだけ下駄箱で彼女を待つ羽目になっていたのだった。そこでふと、お昼休みに聞いた話を思い出したというわけである。 ――せっかくだし、試してみようかな。  私は下駄箱で傘を広げると、そのまま校舎の外に出たのだった。この時の雨はそこそこ強いもので、黄色い傘にはばたばたと雨粒がぶち当たる音が聞こえてくる。私は深呼吸すると、その雨粒のいくつかを頑張ってカウントしてみることにしたのだった。 ――12345678910……!  雨音は不規則で、しかも速い。数えられたのは、傘に当たった特に大きな雨の音だけだった。これって普通に難しいのでは、と23くらいまで数えた時に頭の隅で思う。――しかし、どうやらトリガーとしてはそれで充分だったらしい。  不意に、雨粒の当たる速度が少し遅くなった気がした。反面、どこか音が重たくなった気がするのである。ぱたぱたぱた、という軽い音から――ばたばたばた、というちょっと重くて鈍い音中心に。  どうしたんだろう、と思った瞬間。手にかかる傘が、ずん、と重くなった気がした。 「え」  ぱたぱたぱたぱた。  相変わらず、雨音は続いている。ただ、それに混じって、少し違う音が聞こえてくることにきがついた。  ばたばたばたばた。  その音が聞こえるたびに、傘が少しずつ重くなっていく。そして、私が何もしていないのに、傘がくるり、くるりと回り始めたのだ。  私の背中を、冷たい汗が伝った。 ――これ……ひょっとして、これ。傘の上に、何か、乗ってる?  私は両手で傘をしっかり支えると、おそるおそる傘の下から上の方を透かして見た。黄色い傘ごしに、うっすらと黒い影が見えている。それが、ばたばた、という重たい音がするたびにもぞもぞと動くのだ。そう。  まるで、傘の上を四つんばいになって這い回っているような。 ――違う。
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