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春日狂想
「木内が読書って、珍しいな。
何読んでんの?」
俺の大切な恋人 大悟が、読みかけの本を覗き込み聞いた。
だから俺はソファーに腰を下ろしたまま彼を見上げてクスリと笑い、答えた。
「詩集だよ、中原中也の。
大悟は、知ってる?」
その問いに彼はちょっと不快そうに口元を歪め、名前だけと答えた。
負けず嫌いなところも、可愛い。大好き!
「『愛するものが死んだ時には、自殺しなきゃあなりません。
愛するものが死んだ時には、それより他に、方法がない。』」
詩の一節を読み上げると彼は、ぎょっとした様子で、大きな瞳をさらに大きく見開いた。
「なんだよ?それ……。
おっも!こっわ!」
ドン引きした様子で、言われた。
だけどこの詩は、今の俺の気持ちにぴったりマッチしていて。
だからじっと彼の顔を見つめたまま柔らかな頬に手を伸ばし、クスクスと笑いながら告げた。
「こわい?でも俺は、よく分かるよ。
……大悟がいない世界になんて、何の意味もないから」
その瞬間、彼の真っ白な肌が赤く染まる。
それから大悟は、ぎゅっと唇を噛み締めた。
これは恥ずかしくてたまらない時、彼がする癖のひとつだ。
「噛んじゃ駄目って、言ったよね?」
彼の背中に腕を回し、ペロリと唇を舐めた。
すると大悟は照れ隠しのため眉間にシワを寄せ、無理矢理仏頂面を作った。
素直じゃない、天の邪鬼なところまで可愛過ぎる。
そんな俺の駄々漏れの感情に気付いたのか、彼はいつもみたいに悪態を吐き、プイと顔を背けた。
「……お前、ホントきも過ぎ」
それが可笑しくて、ついプッと吹き出してしまった。
いつもならここで彼には逃げられてしまうのだけれど、今日はちょっと違っていた。
「なぁ、木内。
……なら俺はお前よりも、一分でも、一秒でも長く生きてやるよ」
それに驚き、彼の顔を凝視した。
すると大悟はニッと笑い、今度は珍しく、彼の方からキスをしてくれた。
「俺のせいで死なれたら、スッゲェ後味悪いし。
……お前が死んだ後も、俺はたらふくうまいもん食って、人生を謳歌して、あの世でそれを自慢してやるよ」
あまりにも大悟らしいその発言に、ついまた吹き出した。
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