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親の仕事の関係で日本に引っ越してきた当初から、大悟は俺にとって特別な存在だった。
クォーターで帰国子女の俺は最初日本語をほとんど話す事が出来なかったから、クラス内では浮いた存在だった。
そのため休み時間などは、教室でひとり席に座ったまま、マンガを読んで過ごす事が多かった。
英語しか話せない俺を敬遠し、皆遠巻きに物珍しそうに見ているだけの中、大悟だけは違っていた。
『お前もそれ、好きなの?』
たぶん大悟に聞かれたのは、そんな感じの事。
だけどまだまったく日本語が話せなかった俺は、ただ無言のまま彼の事を見上げた。
すると彼は言葉が通じないと察したのか、そのままふいと居なくなってしまった。
でもその頃の俺は誰かと仲良くしたいとも、日本語が話せるようになりたいともあまり思っていなかったから、特に気にせずまた目線をマンガへと戻した。
だけど彼は、すぐに再び俺の元へ戻って来た。
『えっと……お前にこれ、やるよ。
Thi……s book, it lif……ts to you?』
片言の英語とともに差し出された、同じマンガの日本語バージョン。
俺が持っていた英語版と一緒に読んだら、勉強になるんじゃないかと言いたかったのだろう。
『Thanks!あり……がと』
***
彼とちゃんと話してみたくて、その日から俺は日本語を真面目に勉強するようになった。
でもたぶんこんな事、本人はもう忘れてしまっているだろうけれど。
クスクスと笑いながら、どちらからともなく顔を寄せ、唇を重ねる。
その柔らかな感触にはもう慣れたはずなのに、いくら味わっても足りない。
もっと、もっと欲しくなるんだ。
際限無く、永遠に。
だからふたりで一緒に、長生きしよう?
この甘く幸せな時間が、少しでも長く続くように。
【…fin】
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