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 初めてバイクに乗ったのは、中学の卒業式。  憧れてた先輩の後ろに乗せてもらった。人通りの少ない公園の公衆トイレで色んな意味で卒業したのも、その日。今思えば、バカなことしたと思ってる。でも、憧れてたんだから、良かったんだ。オンナを5人ぐらい抱えてるようなバカだったから、それっきりになったけど。  風を切って走るのが好きだった。嫌なことがなんもかんも忘れられた。  胸が膨らみ始めた時から周りはみんな、あたいをオンナとして見るようになった。  女の子なんだからもっとおしとやかにだかなんちゃらかんちゃら。うるさいし、どうでもいい。妹はあたいと違って頭も良いし、顔も綺麗だから、みんなそっちを贔屓して、いつしかあたいを見なくなった。母ちゃん以外は。  父ちゃんは酒と博打でどうしようもないクズだった。さっさと離婚したら良かったのに、母ちゃんは優しいから、ずっと世話してた。母ちゃんの給金は全てクソ親父の酒と博打で消えていくから、母ちゃんはいつまでも仕事をしてた。そんで、ついには体を壊しちまった。金の切れ目が縁の切れ目って言うもんだ。まあ、離婚できて良かったと思う。  あたいはあたいで、あれこれやり繰りしてもらって、高校には通っていた。トイレでタバコ吸ってんのバレて怒鳴られるのもしょっちゅうだった。体育倉庫でヤッてるサル共に比べたらあたいのほうがよっぽどイイコだと思うのに、セン公的には、アウトらしい。まあ、過ぎた話だからどうでも良いや。  ラーメン屋と郵便局と新聞配達でバイトして、貯まった金でバイクの免許を取った。あれほど嬉しいことはなかった。バイクは女の先輩のおさがりをもらった。既に改造されてたけど、扱いやすいイイコだった。そんですぐにポリ公の世話になった。どれだけ速く走れるか試したのが悪かったらしい。これでまたもや学校で叱られた。母ちゃんも叱られた。母ちゃんは泣きながら謝ってた。どうして母ちゃんが謝るのかわかんなかったあたいは、だいぶバカだったと思う。  母ちゃんを泣かせたらクソ親父と同じようになっちまうから、あたいはその日から昼間はイイコになった。  夜は峠をひとっぱしりした。あたいの他にも走ってるやつはけっこういたし、仲良くなるのにもそう時間はかかんなかった。あたいの走りはなかなか美しいらしくて、いつの間にかあたいを慕うオンナが増えていた。時には競い合いをして、峠をギリギリに攻めたあたいに惚れこんで、舎弟が増えてきた。男は信用できないから、女だけ仲間にした。  気付けば、あたいは総長になっていた。不良漫画に影響されてんのかわかんない子が、あたいに特攻服を縫ってくれた。刺繍も手縫いだ。その手の器用さがあんなら、あたいの服なんて作らずにハンドメイド作家として売りだしゃ良いものを。  高校時代はずっと総長張ってた。チームに入りたいって女も続々と増えて、いつの間にかけっこう大きな組織になっちまった。  他人様(ひとさま)に迷惑をかえたらクソ親父と同じになっちまうから、あたいは暴走したやつらは必ずシメた。そんなことを繰り返してたら、あたいに対して喧嘩を吹っ掛けたい奴らも当然出てきて、ある日仲間が拉致された。クソ迷惑な話だ。だから、あたいは、イイコをやめた。廃工場を捜し回って拉致犯を見つけて徹底的にボコッてやった。その抗争の日から数日後。あたいは総長を辞めた。  死ぬほど勉強して、短大を受験して、第一志望校に合格できた。傷つけることしかできなかったあたいは、誰かを癒す職業――看護師になろうと思った。  妹に「姉ちゃんは喋らずにおとなしくニコニコしてたら良いよ。口より先に手が出るところがダメ」ってアドバイスされた。でも黙ってたら黙ってたでなめられちまいそうで嫌だね。  入学式から数日すれば、女特有のグループができる。あたいの周りは派手めの子が多い。地味な子は地味なりにまとまっていた。なわばりはチームにゃ必要なことだ。あたいが元レディースの総長だって知ってる子もいた。平穏に生活できりゃなんでも良いや。  のんびり平和に過ごして数日。あたいが一人でキャンパス内をうろついてたら、温室前でふさぎこんでる男を見つけた。白衣を着てるから、ここの生徒で間違いない。過呼吸を起こしてるようだったから、あたいは習ったばかりの知識をフル活用して、男に手当てした。良かった。あたいにもできた。 「おっきいおっぱい……ぎゃっ!」  あたいは男を思いっきりぶん殴っちまった。でもこいつが悪いんだよ!
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