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辞めない代わりに
「どうしても……辞めさせてくれないのか?」
「辞めなかったら……魔王を討伐できたなら、君と結婚してもいいわよ?」
「は?」
今なんて言った?
「自分より弱い者とは結婚しないと宣言してるマリア姫が!?」
「あらあらぁ?」
「ここで引いたらマリア姫の顔を潰すことになりますぞ、シエナの王子」
「まって、おにいちゃんと結婚するのはあたしなのに!」
口々に勝手なことを……!
「いや、その、確かに……マリア……」
マリアと結婚すればシエナ王国とテッヘルブルク大公国の同盟はより強固なものになり、ゆくゆくはこの二国で覇権を取ることも不可能ではない。
当初の計画とは全く異なる世界になる。
1から練り直しだ。
8歳の頃から考えてきた計画を練り直しとはな……。
「あーはいはい、分かった。分かったから。そんな条件出されたら辞めるわけにいかねえだろうが」
ふざけやがって。
「これはもう婚約祝いなのでは?」
金目のクリサが思い出したかのように言うと、周りのメンバーもそうだそうだと口々に喚く。飲み過ぎだぞお前ら。
「やだー! おにいちゃんのお嫁さんになるのはあたしなの! あたしじゃなきゃやだの!」
「落ち着けロッティ。多分、お前と結婚できなくなるわけでもないと思うぞ。お嫁さんが複数いる場合も過去にはあったらしいからな」
「ほんと!? じゃあマリアおねえちゃんを始末しなくて済むんだね!」
「は?」
「だってあたしのほうが強いもん」
「それは聞き捨てならないわね。今なら子供の冗談として許してあげるけれど」
「待て待て待て待て。確かに魔法の威力や範囲ならロッティの方が上だが、総合力を考えれば比べるまでもなくマリアのほうが強いぞ」
「ふっふーん? それはどうかなあ?」
おにいちゃん、だーいすき!
などと言ってアンネロッテはアストロに抱きついて頬擦りしたり首にキスしたり。そうして勝ち誇った顔をしてマリアを見るのだ。
「マリアおねえちゃんにこれはできないもんね。あたしの勝ち! あたしのほうが強い!」
「いやそれは別に強さでもなんでもないよな?」
マリア、目が怖いよ。
なんで近付いてくるんだ?
おい、胸ぐらを掴むんじゃ
目を閉じて触れる唇。強引にねじ込まれる舌先。溢れる吐息。たどたどしくも前のめりなキスだった。
「……これはアンネロッテにはできないでしょ? 私の勝ちよ」
嘘だろ?
「うわぁ……」
お前がドン引きするなロッティ。
「あのマリア姫が……」
「もう結婚しちまえよ!」
「浮かれるのは早いわよ。まだ魔王軍との戦いは始まったばかりなのよ。でも、彼が共に戦うというのなら、我らは間違いなく魔王軍を撃退し、魔王を打ち破って世界に平和をもたらすわ!」
間違いない! その通りだ! など、大勢の仲間が威勢良く声を上げ、祝勝会の盛り上がりは最高潮に達した。
まさか味方の士気を高めるためにそこまでしたっていうのか?
さすがは人類のリーダー。人類の守護者たる女神の末裔だ。
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