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働きたくない、絶対にだ!
うっわ……働きたくねえ……。
明日の決戦に備えブリーフィング中のことである。
魔王軍を次々と退け、明日の決戦を勝利すれば人類の勝ちが決まったも同然であるこの状況、リーダーのマリアが意気揚々と作戦を伝えている最中、オレはどうやって辞めるかを考えていた。
「皆、明日は魔王幹部ギルスと交戦予定よ。気を引き締めていきましょう」
女神の末裔であり、人類最強と名高いパーティリーダーのマリア。
「またいつもどおりあたしのノヴァフレアでワンパン!」
いまだ12歳でありながら、前人未到の滅級魔法の使い手にして妹のアンネロッテ。
「討ちもらしたなら俺がとどめを刺してやるぜ」
超大国の王子であり、魔法も剣もその実力は国士無双とされるテオドール。
「こっちはこっちで大群を引き受けるから、みんなよろしくねぇ」
精鋭部隊を率いて魔王軍を翻弄するイーリス聖教会の聖騎士団長、オルトラットのヴィスカー。
「がんばりましょう!」
正面からの攻撃は絶対回避する特殊能力を持つ北国の勇者、金目のクリサ。
「防衛線は任せておけ。1匹たりとも其方らの住まう土地に足を踏み入れさせはせん」
勇気を持って敵数千をたった一人で引き受けて、孤軍奮闘の後に生還するライラントの英雄ラインハルト。
いやー、こんなパーティが結成されて素晴らしいなぁ。オレははやく帰りたい。こんな野営地で、配給されたボソボソのパンと腐りかけのミルクを食う生活に耐えられるかよ。
つーかオレ要らねえじゃん!
なんでオレ居るの?
よし、辞めよう。
「何か質問は?」
無いよな。開幕アンネロッテが全部片付けるだろ。
「解散!」
皆が明日の戦いに備えて休息を取りに行ったのを見計らってオレはマリアに近付いた。周りに誰もいないこの機会を逃したら次はまたいつになるか。
「マリア」
ろうそくの明かりが机を照らす中、アストロは意を決してリーダーに話しかける。
「なに? 君も早く休んだほうがいいわよ」
「その……なんだ……。オレは……もうこのパーティを抜けたい」
「いきなり何を言い出すかと思えば……。理由は何?」
「まずオレがこのパーティにいる理由がないだろ」
「人手が足りてないのにそれを言うの?」
部屋を照らす篝火がバチバチと爆ぜて燃え上がった。
「いや余ってるだろ。お前とアンネロッテしかまともに働いてないぞ? あとの連中は飾りじゃねえか」
「そんなことはないわ。皆、それぞれの役割をこなしている。君もそうよ」
「いや、慰めは結構。オレは何もしてないし、もう辞めたいんだ」
「何が不満なの? 活躍できないから帰るの? 違うわよね? あなたをパーティに入れたのは私よ? 私の見識に問題があると、そう言いたいの?」
「そうじゃねえ。いいか? オレたちが戦ってる。皆、命張って戦ってる。それなのになんだこの状況は。不味い飯、固い寝床、寒い部屋、湯にもロクに浸かれず、いつ襲われるか分からない敵地ど真ん中の生活。やってられるかよ」
「逆に聞くけど、一流シェフの料理が毎日出て、王宮の客室で寝て、毎日温泉に入れるとしたら、君は戦うってこと?」
「…………」
篝火の薪が崩れて乾いた音を立てた。
「違うわよね? ただ理由付けをしただけで、根本は変わらないわね」
こいつ……。
「君が戦いたくない理由をはっきり言いなさい」
淡々と、しかし強くマリアは言う。問題点が明確でなければ解決することは不可能だからだ。
「……オレはお前たちとは違う。戦うのは好きじゃないんだ」
「そう……。辞めたい意思は分かったわ。魔王幹部ギルスを無事討伐できたなら、明日、皆の前で話してみなさい」
おやすみ、と彼女は部屋を出て行った。
もう辞めたい。
はぁ……。
国に帰ってやらなきゃいけないことが山ほどあるのに。
鬱々としたまま、アストロは決戦に備えて休んだ。
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