雨音を誘う二千円

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「おじいちゃんめ……はぁ……帰ったら……はぁ……ホッキョクグマのかき氷、買ってや……はぁ……」  ミックスフルーツで彩り豊か、(プラス)シュワシュワな味わいを舌で思い出しつつ、御神木(ごしんぼく)の根元に当たらないよう、除草機を小刻みに動かす。  ここ、水結(みなむす)神社は、形こそ他と同じように清潔さを保っているけれど、この村で唯一の(さび)れた神社だ。  そして私、水結雨音(あまね)は、そんなサビサビ神社の跡取り孫娘。休日は今日のように、神主であるおじいちゃんのお手伝いをしている。  平成の初めくらいまでは、それなりに参拝客もいたみたいだけど、令和の今やその数は激減。一日に五人来ればいい方だ。  理由は単純。村だから。過疎ったから。以上だ。 「う~ん――っはぁ……」  大体半分ほど()り終えたかな、というところで大きく伸びをして顔を上げると、空は今にも一雨降りそうな灰色をしていて、辺りは(きり)がかっていた。  生ぬるい風が、サワサワと頭上の木の葉を揺らし、頬を(かす)めて真っ直ぐな結髪を(なで)る。  もうそろそろ梅雨入りかな、なんてぼんやりと見上げていた、そのときだった。  サァァ……  柔らかい微かな音が耳元へ届いた、次の瞬間、頬を冷たいものが伝った。 「……え? もしかして、雨?」  頬に手をやり、次に装束の白衣の肩に触れると、確かにしっとりと濡れていた。
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