雨音を誘う二千円

1/4
前へ
/14ページ
次へ

雨音を誘う二千円

雨音(あまね)、ちょっと外出て、雑草取ってきてや」  日曜日の昼下がり、社務所で扇風機を前にして突っ伏していると、おじいちゃんが肩を揺すってきた。  私は右腕に顔を預けて、「えぇ~」と気だるい声を上げる。 「嫌や、絶対暑いやん……ていうか、なんでそれ午前中に言うてくれへんかったん?」  恨めしい気持ちを込めてジトリと見上げると、わざとらしく狼狽(うろた)えるおじいちゃん。  アワアワと両手を動かすと同時に、装束の白衣の袖口が揺れる。 「そ、そりゃあ、午前はやな、七夕さんの準備とか色々あったんや!」  まるで(つば)を飛ばさん勢いに早口で、そして何故か逆ギレ気味に返されたが、「ふぅん」と欠伸(あくび)混じりに応じる。 「今から七夕の準備って……まだ五月やで。ウチの神社、どんだけ暇やねん」  そして小さく悪態をつくと、ますます小さく縮こまるおじいちゃん。  流石にちょっと言いすぎたかと思って、「ごめん」とボソリと謝ったのだが――。 「そうや、そん通りや! ウチの神社は、ホンマにだっれも()うへん!」  何故か目をキラキラと輝かせて、拍手したかと思うと「せやから頼む、雨音!」なんて、呆気にとられている隙に、ちゃっかり両手を握られてしまった。 「外出て雑草取って、ついでにその可愛ええ巫女(みこ)姿で、お客さん、連れてきてくれ!」
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加