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外はまだ大雨のはずなのに、音が全く聴こえない。
「幼なじみ言うんやったら、昔みたいに呼んでや。――"こうちゃん"って」
信じられないくらい、優しく、でも切なげに耳元で囁かれる。
――……っ!
こそばゆい、なんてものじゃない。ゾクリと肌が粟立つ感覚がした。鳥肌が立ったわけじゃないのに、理由が分からない。
「な、なに、どしたん急に……! アンタらしくもない……」
「茶化さんで。ちゃんと呼んで、雨音」
空いている左手で肩を押し退けようとしても、驚くほど素早くパシリと取られてしまう。
「冗談で言うてるんとちゃう。俺は本気や」
薄暗い洞窟の中、二つの目が、異様に熱っぽく光っている。
それを見て、私は遂に根負けした。
「こ……こうちゃん」
俯いて小さく小さく呟く。
「もっかい」
また耳元で低く囁かれる。
「こうちゃん……」
今度は少し大きめに呼ぶと、心の中で叫ぶ。
――コイツの距離感、おかしいやろっ!
私たちは付き合っているのか。答えはノーだ。そういう気分を味わいたいのなら、欠点なしと名高いクラスいちの美少女・宮園さんにでも頼めばいい。
宮園さんは多分、こうちゃんのことが好きだ。だって毎日毎日、飽きもせずに目で追いかけては、ため息ばかりついているんだから。
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