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雨音を誘う二千円
「雨音、ちょっと外出て、雑草取ってきてや」
日曜日の昼下がり、社務所で扇風機を前にして突っ伏していると、おじいちゃんが肩を揺すってきた。
私は右腕に顔を預けて、「えぇ~」と気だるい声を上げる。
「嫌や、絶対暑いやん……ていうか、なんでそれ午前中に言うてくれへんかったん?」
恨めしい気持ちを込めてジトリと見上げると、わざとらしく狼狽えるおじいちゃん。
アワアワと両手を動かすと同時に、装束の白衣の袖口が揺れる。
「そ、そりゃあ、午前はやな、七夕さんの準備とか色々あったんや!」
まるで唾を飛ばさん勢いに早口で、そして何故か逆ギレ気味に返されたが、「ふぅん」と欠伸混じりに応じる。
「今から七夕の準備って……まだ五月やで。ウチの神社、どんだけ暇やねん」
そして小さく悪態をつくと、ますます小さく縮こまるおじいちゃん。
流石にちょっと言いすぎたかと思って、「ごめん」とボソリと謝ったのだが――。
「そうや、そん通りや! ウチの神社は、ホンマにだっれも来うへん!」
何故か目をキラキラと輝かせて、拍手したかと思うと「せやから頼む、雨音!」なんて、呆気にとられている隙に、ちゃっかり両手を握られてしまった。
「外出て雑草取って、ついでにその可愛ええ巫女姿で、お客さん、連れてきてくれ!」
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