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プロローグ
「……つ、疲れた…」
一日中座りっぱなしでぱんぱんに張った脚を重そうに引きずりながら深い溜め息を吐いても慰めてくれる人は誰も居ない。
製紙会社の受け付けで働く万年独身女の飯口羽海は仲良さげに腕を組んで歩いているカップルとすれ違うたびに羨ましそうに横目で見ては 私って一生独りなのかな? と苦笑いをこぼした。
「やっぱり今日行けば良かったかな?」
お昼休憩の時に同じ受け付け係の菊池史子に『ねぇねぇ、合コン行かない?』と誘われたのだが仕事の疲れが溜まっていてそれどころじゃなかったので断ったのだ。
それを今更後悔しながら歩いていると少し先の方でふらふらと人にぶつかりながら下を向いて歩いている若い女性の姿が見えた。
「何か探してるのかな?………あっ、あの…何か探し物ですか?」
勇気を出して声をかけると気付いた女性はゆっくり振り向いてじぃっと羽海を観察するように見つめてきた。
女性は膝上丈の黒のシースルーワンピースを着ていて黒髪セミロングに毛先が所々深緑と薄紫に染めてあった。少し猫っ毛らしくふわふわと天然パーマで良く見ると左右の目の色も違っている。
まるで猫みたい…。 羽海はその美しさに少しだけ魅入った。女性の年齢は見た目から羽海とあまり変わらなそうに見える。
「……“ふぅ”のやつ見つかんないの…」と女性は言った。
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